クライシュ一族がマッカで所有した井戸
ザムザムの掘削以前、クライシュ一族はすでにマッカで幾つか井戸を掘っていた。アブド・シャムス・イブン・アブド・マナーフは、マッカの小高い場所に位置するアルバイダーア、つまりムハンマド・イブン・ユースフ・アッサカフィの家の近くに、アッタウィーの井戸を掘った。
ハーシム・イブン・アブド・マナーフは、アブー・ターリブの山道の出入り口にあるアルカンダマ山の尾根、アルムスタンダルの近くにバッザルの井戸を掘った。彼はそれを掘ったとき、「私はこれを民の生計の手段としよう」、と言った、と伝えられている。
ハーシム・イブン・アブド・マナーフは、アルムトイム・イブン・アディーユ・イブン・ナウファル・イブン・アブド・マナーフが所有して、今も使用されているサジラの井戸も掘った。ナウファル族は、アルムトイムが、アサド・イブン・ハーシムからそれを買った、と主張し、一方、ハーシム族は、ザムザムが再発見されてほかの井戸が不用になったので、ハーシムがアルムトイムに贈った、と主張している。
ウマイヤ・イブン・アブド・シャムスは、自分のためにアルハァフルの井戸を掘った。アサド・イブン・アブドゥル・ウッザの部族は、自分たちのためにスカイヤの井戸を掘った。アブドッ・ダールの部族は、ウンム・アハラードの井戸を掘った。ジュマハ族は、ハラフ・イブン・ワハブが所有するアッスンブラの井戸を掘った。サハム族はアルガムルの井戸を掘った。
マッカの外には、ムッラ・イブン・カアブとその息子キラーブ・イブン・ムッラの時代にさかのぼり、クライシュの最初の王子たちが掘った、ルンムとホンムなどの古い井戸がいくつかあった。ルンムを掘ったのは、ムッラ・イブン・カアブで、ホンムとアルハフルを掘ったのは、キラーブ・イブン・ムッラの部族だった。アディーユ・イブン・カアブ・イブン・ルアイイの部族のホザイファ・イブン・ガーニムは次のような詩を詠んだ。
「古き良き時代、我らは長い間、満足していた、
ホンムとアルハフルから水を引いて」。
ザムザムは、それまで巡礼者に水を提供していたほかの井戸の名声を完全に失わせた。さらにそれは聖域の中にあり、その水質はほかのどの水よりも優越していたので、人びとはザムザムの水を求めた。しかもそれは、イスマイール・イブン・イブラヒームの泉であった。この理由のために、アブド・マナーフの部族は、クライシュ一族とほかのすべてのアラブの部族に対して、誇らしげに振る舞った。
アブド・マナーフの部族が、巡礼者に水と食を提供する権限を保有し、彼らがザムザムを発見し、そして名誉と功績が自分たちの部族全員のものであることを、クライシュ一族に誇った詩がここにある。
「栄誉は我らの父祖からもたらされた。
我らはそれをさらに偉大にした。
我らが巡礼に水を提供せず、
肥えた乳用ラクダを犠牲にしないと言うのか。
死が近づいたときわれらは
勇敢で寛大と見なされた。
我らは滅ぶとも(永久に生きる者はない)
よそ者が我らの血縁を束ねることはない。
ザムザムは我らの部族に所属する。
我らは、我らをねたましく見る者たちの目をえぐり出す」。
ホザイファ・イブン・ガーニムは詠んだ。
「彼のために泣け、巡礼者に水を提供した者、彼の息子でパンをちぎった者、
そしてアブド・マナーフ、あのフィフリーの主人。
彼の水の支配は、ほかの誰のものよりも誇り高い」。
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