2012年9月18日火曜日

『預言者ムハンマドの生涯』第一巻(96)

アブドゥル・ムッタリブの、息子を犠牲にする誓い(2)


 アブドゥル・ムッタリブは息子の手を取り、大きなナイフを持ち、彼を犠牲にするために、偶像のイサーフとナーイラのところに連れて行った。すると、クライシュの者たちが集会から出て来て、彼に、「何をしようとしているのか」と尋ねた。彼は、「これから息子を犠牲に捧げるところだ」、と言うと、クライシュやほかの人びとは、「神にかけて、あなたが神に息子の代わりとして最も大切な贖罪のささげ物を差し出せば、自分の息子を犠牲にすることはない。もし、あなたが息子を犠牲にするならば、これから、男たちが自分の子どもを犠牲にしようとすることを、止められなくなる。そうすれば、民はどうなってしまうのだろうか」、と言った。そして、アブドッラーの母の出身部族の、アルムギーラ・イブン・アブドッラー・イブン・アムル・イブン・マフズーム・イブン・ヤカザは、「神にかけて、あなたが神に息子の代わりとして最も大切な贖罪のささげ物を差し出せば、自分の息子を犠牲にすることはない。彼の身代金が我らの全財産に相当しようとも、我らは彼を身請けしよう」、と言った。このように、クライシュやほかの人びとは、アブドゥル・ムッタリブに息子を犠牲にしてはいけないと言い、ヒジャーズに人を救済する霊力を備えた女魔術師がいるので、そこに息子を連れていき、相談するようにと助言した。もし魔術師が息子を犠牲にするようにと言うのならば、事態はそれより悪くなりようがないし、もし彼女が好ましい回答を出すのならば、それを受け入れれば良いと彼らは説明した。そこでアブドゥル・ムッタリブは息子を連れて、はるかマディーナにまで出かけていったが、そこで魔術師はハイバルにいることを知った、と伝えられている。彼らはさらに旅を続け、ようやく彼女に会って、アブドゥル・ムッタリブが事の始終を告げると、魔術師は、霊が彼女に宿りこの件について霊に聞けるようになるまで、彼女から離れているように、と言った。彼らは魔術師から離れ、アブドゥル・ムッタリブは、アッラーに祈った。そして翌日、彼らが魔術師を再訪すると、彼女は、「お告げがありました。あなたたちの間では血の代償金はいかほどでしょうか」、と尋ねた。彼らは、「それはラクダ十頭である」と答えた。当時の代償金は実際そのようであった。魔術師は彼らに、「国に帰ってラクダ十頭と、この若者を並べ、ラクダと彼のためにくじを引きなさい。もし、彼を犠牲にするくじが出るのならば、あなた方の主が満足なさるまで、ラクダの数を増やしなさい。そして、ラクダを犠牲にするくじが出たとき、彼の代わりにラクダを犠牲に捧げなさい。あなた方の主はそれで満足され、あなたの被保護者は死を免れます」と告げた。二人がマッカに戻り、人びとがこの魔術師の助言を実行することで合意したとき、アブドゥル・ムッタリブは、アッラーに祈った。ホバルの偶像のそばでアブドゥル・ムッタリブはまたアッラーに祈り、人びとはそこにアブドッラーとラクダ十頭をそろえた。彼らがくじを引くと、アブドッラーを犠牲にする矢が出た。そこで彼らはラクダ十頭を加え、アブドゥル・ムッタリブはアッラーに祈ってから、またくじを引くと再びアブドッラーを犠牲にする矢が出た。このようにくじを一回引く度にラクダ十頭を加え、あらたにくじを引く前にアブドゥル・ムッタリブはアッラーに祈った。最後にラクダを犠牲にするくじが出たとき、ラクダの数は百頭に増えていた。くじ引きに参加していたクライシュやほかの人びとは、「ようやくあなたの主は満足なさった、アブドゥル・ムッタリブよ」、と言った。「いや、神にかけて」、と彼は答え(そう人びとは言っている)、「私が三回くじを引くまでは」、と言った。そして三回くじを引くと、三回ともラクダを犠牲にする結果が出た。それでラクダは正式に犠牲に捧げられ、(ラクダを食べるのを)妨害される者は一人もいなかった。

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