2012年9月2日日曜日

『預言者ムハンマドの生涯』第一巻(93)

ザムザムの掘削(4)


 これが彼に告げられたとき、彼がザムザムの場所を尋ねると、「それは明日、カラスがつついているアリの巣の近くにある」、と告げられた、と人びとによって伝えられているが、それが真実であるかどうかは、神が知っていることである。
 翌日、アブドゥル・ムッタリブと、その当時は唯一の息子であったアルハーリスが出かけて行くと、クライシュが動物を犠牲にしていた二つの偶像、イサーフとナーイラの間に、カラスがつついているアリの巣が見つかった。
 彼はつるはしを持ち出し、命じられた場所を掘り始めた。クライシュは、彼が作業しているのを見て、「犠牲を捧げている二つの偶像の間を掘ることを許さない」と警告した。アブドゥル・ムッタリブは、夢で告げられたことを断固として実行する決心をしていたため、息子に「私が掘っている間、私を守りなさい」と言った。
 クライシュたちは、彼が作業をやめようとしないのを見て、彼のなすがままにした。彼が深く掘り下げるまでもなく、井戸の石のふたが現れたので、神が彼を正しく導いてくださったことを、彼は感謝した。
 さらに掘り下げると、ジュルフム族がマッカを離れるとき、そこに埋めていった二つの黄金のガゼルを発見した。彼はさらにいくつかの剣と、シリア製の鎖かたびらの上着を発見した。
 クライシュ一族は、これらの埋蔵物を分配する権利を主張した。アブドゥル・ムッタリブはこれを拒否したが、問題を神聖なくじ引きで決着することを受け入れた。彼は、二本の矢をカアバのもの、別の二本の矢をクライシュのもの、さらに別の二本の矢を彼のものとする、と言った。
 矢筒から出てきた二本の矢が、埋蔵物の所有者を決めるのである。このように決められると、彼は、黄色い二本の矢をカアバのものとし、黒い二本の矢を彼のもの、白い二本の矢をクライシュのものとした。
 そしてこれらの矢は、矢占いを担当する祭司に渡され、偶像ホバルのそばで投げられた。(ホバルはカアバの中心に置かれた偶像で、当時、彼らが最も敬意を払っていた偶像であった。アブー・スフヤーン・イブン・ハルブ〔ウマイヤ家の家長〕は、ウフドの戦いの時、「立ち上がれ、ホバルよ」、すなわち、汝の宗教を勝利させよ、と叫んで、そのように言及した)。
 アブドゥル・ムッタリブが神に祈り始め、祭司が矢筒を投げると、ガゼルの割り当てに対して、黄色い二本のカアバの矢が出た。剣と鎖かたびらの割り当てに対しては、アブドゥル・ムッタリブの黒い二本の矢が出た。
 クライシュの白い二本の矢は、残されたままであった。アブドゥル・ムッタリブは、剣をカアバの扉とし、黄金のガゼルをその上に載せた。
 これがカアバの最初の黄金の飾り物であると、人びとは語っている。それ以来、アブドゥル・ムッタリブは、ザムザムから巡礼者たちに水を提供する務めを担当した。

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