2012年9月2日日曜日

『預言者ムハンマドの生涯』第一巻(91)

ザムザムの掘削(2)


 ザムザムの正確な位置が示唆されると、アブドゥル・ムッタリブは、それが事実と一致していることを知り、つるはしを取って息子のアルハーリス(そのころ息子はまだ一人だけだった)を連れていき、そこを掘り始めた。
 泉の水面が現れると彼は、「アッラーフ・アクバル」〔神は偉大なり〕と叫んだ。彼が、求めていたものを獲得したことを知ったクライシュの者たちは、彼のところにやって来て、「これは、我らの始祖イスマイールの泉である。だから我らにも権利があるので、泉を分け合おう」、と言った。
 「私は泉を共有しない」、と彼は答え、「これは私だけに特別に語られたことであり、あなたたちにではない。泉を与えられたのは、私である」、と言った。彼らは、「正義を行おうではないか。我らはこの問題で法的な決定が下されるまで、あなたから離れない」、と要求した。
 彼は、「我らの間の審判として、誰でも好きな人を任命しなさい」、と答えた。彼は、シリアの高地に住む、サアド・ホザイムの部族の女占い師を審判とすることに同意した。そこで、アブドゥル・ムッタリブは、親族数人と、クライシュ一族の各部族の代表たちと共に、シリアに向けて出発した。
 彼らは、ヒジャーズとシリアの間の荒地を進んでいき、その途中、アブドゥル・ムッタリブの一団は水を飲み尽くし、渇きのために死を恐れた。彼らは、クライシュの代表たちに水を求めたが、クライシュは、彼らに水を分け与えれば、クライシュ自身が渇きのために死んでしまうとして、水を与えるのを拒否した。
 途方に暮れたアブドゥル・ムッタリブは、どうすればよいか仲間に相談したが、彼らにできることは、アブドゥル・ムッタリブの指示に従う、と言うことだけだった。そこで彼は、「各人が残された力の限り、自分の穴を掘る以外にないと思う。そうすれば、一人が死ぬ度に仲間が最後の一人になるまで、死んだ人を穴に落とすことができる。仲間の全員が埋められないまま屍を横たえるよりも、最後の一人だけが埋められない方がましだからだ」、と言った。
 彼らは彼の提案を受け入れ、めいめいが自分の穴を掘り始めた。そして、渇きのために死を待ちながら、穴のそばに座った。しばらくするとアブドゥル・ムッタリブは、仲間に向かって、「神にかけて、このように死ぬために自らを放棄して、水を求めて土地を探し回らないのであれば、それは我らがただ無能なだけである。神はどこかで我らに水を与えてくださるであろう。鞍に乗れ」、と呼びかけた。
 彼らは、クライシュの代表たちが見守るなか、ラクダに乗る準備を整えた。アブドゥル・ムッタリブが、自分の雌ラクダに近づき、鞍に跨り、ラクダが膝を持ち上げたその時、雌ラクダの足の下から水がほとばしり出た。
 アブドゥル・ムッタリブと彼の仲間は、「アッラーフ・アクバル」、と叫びながら鞍から降り、水を飲み、皮袋を水で満たした。それから彼らは、神が彼らに与えた水のところにクライシュたちを招き、水を自由に飲ませた。
 クライシュたちは、水を飲み終え、皮袋を水で満たすと、「神にかけて、アブドゥル・ムッタリブを支持する審判が下された。我々は決して、ザムザムに対するあなたの権利を争わない。この荒地であなたに水を与えたお方は、あなたにザムザムを与えたお方である。巡礼者たちに水を提供する任務に無事にお戻りください」、と言った。彼らはもはや、占い師のところには行かず、全員来た道を戻っていった。

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