2012年8月6日月曜日

『預言者ムハンマドの生涯』第一巻(79)

アーミル・イブン・ザリブ・イブン・アムル・イブン・イヤード・イブン・ヤシュクル・イブン・アドワーン


 前述したフルサーンの詩の中で、「決定を下す法官」、と言われた人物は、アーミル・イブン・ザリブ・イブン・アムル・イブン・イーヤード・イブン・ヤシュクル・イブン・アドワーンのことである。当時、アラブの人びとは、重大で困難な問題の判断をすべてアーミルに委ね、彼の決定に従っていた。ある時、たまたま両性具有者に関係する係争が彼に持ち込まれた。人びとは、「我々は、男として扱うべきか、それとも女として扱うべきか」、と言った。人びとがそれまで、そのように困難な問題を彼に持ち込んだことはなかったので、彼は、「この問題について調べるまでしばらく待ってほしい。神にかけて、これまで、これほど難しい問題が持ち込まれたことはない」、と言った。彼らは待つことに同意、アーミルは、この問題についてあれこれ思案し、あらゆる観点から検討したが、結論を得ることができず、眠れぬ夜を過ごしていた。彼は、彼の家畜を放牧していたスハイラという奴隷の少女を所有していた。彼女が朝、出かけていくとき、彼は、「スハイラ、今朝は早いではないか」、と皮肉っぽく言って、彼女をからかうのが常だった。そして彼女が夕方遅く帰ってくると、彼女は、朝は遅く出かけて行き、夕方もほかの者に遅れて戻るため、「スハイラ、今晩は遅いではないか」、と言うのだった。この少女は、彼が寝床で寝返りをうち眠れないでいるのを見て、「何を悩んでいるのですか」、と彼に尋ねた。彼は、「出ていけ、独りにしておいてほしい。お前には関係のないことだ」、と言い返した。ところが、彼女があまりにしつこかったので、彼は、もしかして彼女がこの問題で何らかの解決策を与えてくれるかもしれない、と考え、「それほどまでに言うのなら話すが、実は私は、ふたなりの相続について裁くように頼まれているのだ。その者を男として扱えばよいのやら、それとも女として扱えばよいのやら。神にかけて、私はどうしたらよいか分からず、答えが出ないのだ」。彼女は、「まあ、驚いた、簡単ですよ。その人が用を足す仕方に従えばいいじゃないですか」、と言った。「これからは好きなだけ遅れてもいいよ、スハイラ。お前は私の問題を解決してくれた」、と彼は言った。そして翌朝、彼は人びとのところに出かけていき、彼女が示唆した解決策を彼らに伝えた。

 男子は女子の二倍を相続する慣習だった。

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