2012年8月25日土曜日

『預言者ムハンマドの生涯』第一巻(89)

アルフドゥールの誓約(5)


 マトルードは、「あなたの詩は、非常に良くできている。だが、あなたがこの主題をもっと適切に表現したならば、詩はさらに素晴らしくなったであろう」、と周囲の人びとから言われた。そこで彼は、「一晩か二晩、時間がほしい」、と答え、二、三日後にさらに次のように詠んだ。

 「おお、大いに泣いて、そなたの涙をあふれさせよ、

 ムギーラの息子たちのために泣け、あのカアブの高貴な血統のために、

 おお、泣きやむな、そなたの涙を集めて、

 心から嘆き悲しめ、生涯の不幸の悲しみを。

 寛大で信頼される男たちのために泣け、

 彼らの贈り物は潤沢で、気前よく、惜しみなかった、

 彼らの魂は純正で善意に満ち、

 彼らの気質は堅固で、重大事には断固としていた、

 非常時に強く、ひるみなく、誰にも頼らなかった、

 決断は速く、気前のよさには限りがなかった。

 カアブの家系をたどれば、それは鷹、

 栄光の的、絶頂に至る、

 寛大さと、惜しみのないムッタリブのために泣け、

 そなたの涙の泉を解き放て、

 今日、ラドマーンで、我らから異邦人として去っていった、

 我が心は死んだ彼のために悲嘆に暮れる。

 そなたには災いだ、泣きたければ泣け、

 カアバの東のアブド・シャムスのために、

 彼の遺骸の上をガザの風が吹く。

 とりわけ我が友、ナウファルのために泣け、

 サルマーンの砂漠に墓を見つけた。

 我は彼らのような男たちを見たことがない、アラブの中にも異邦人の中にも、

 白いラクダが彼らを乗せて行くとき。

 もはや彼らの野営はどこにもない、

 我らの隊列の輝きだったものだが。

 時が彼らを滅ぼしてしまったのか、それとも彼らの剣が鈍ってしまったのか、

 あるいは、生きとし生けるものは運命の餌食にされるのか。

 彼らが死んでからというもの、我が満足するのは、

 ほほ笑みと友好的な挨拶でしかなくなった。

 髪を乱した女たちの父のために泣け、

 彼女たちは、死が迫ったラクダのようにベールを外して父のために泣く。

 彼女たちはこれまで歩いた者のうちで最も気高い男を悼む、

 涙の洪水で彼を追悼する。

 人びとは気前がよく寛大な男を悼む、

 不正を拒否し、問題を解決した最も偉大な男を。

 アムル・アルウラー〔高貴なアムル・ハーシム〕の死期が近づいたとき、

 人びとは彼のために泣いた、

 彼の優しい気質は、夜の来客を笑顔で迎えた。

 人びとは悲嘆にひれ伏して泣いた、

 悲嘆と哀悼のなんと長いことよ。

 人びとは彼の死から時間が過ぎ去ったとき、彼を惜しんだ、

 人びとの顔は、水を取り上げられたラクダのように青ざめた。

 運命の一撃の重大さのために。

 私は悲嘆にくれ星を眺めながら夜を過ごした、

 私は泣き、幼い娘は泣いて悲嘆を分かち合った。

 彼らに並び匹敵する王子はいない、

 残された人びとのなかで彼らのような者はいない。

 彼らは、一族の中で最高の息子たちであった。

 困難に直面したとき、彼らは最高の男たちであった。

 彼らは、滑らかに速く走る馬をいったい何頭、人に与えたことだろう、

 捕獲した雌馬を何頭贈ったことか、

 見事に鍛えられたインドの剣をどれだけ、

 井戸のつるのように長い槍をいくつ、

 求める人たちに何人の奴隷を与えたことか、

 贈り物をあまねく惜しみもなく。

 私が数えても、そしてほかの者たちが一緒に数えても、

 私は彼らの気前のよさを枯渇させられない。

 彼らは純血な血統の中で最も優れている、

 いかなる者が彼らの祖先を自慢しようとも、

 彼らが遺した家の飾り、

 だから彼らは孤独で見捨てられた、

 私は泣きやまないうちに言おう、

 神よ、不幸な(家族を)救い給え、と」。

 「髪を乱した女たちの父」、という言葉でこの詩人は、ハーシム・イブン・アブド・マナーフを意味している。

 叔父のアルムッタリブの後、アブドゥル・ムッタリブ・イブン・ハーシムは、巡礼者たちに食と水を提供する責務を継承し、彼の一族と共に父祖たちの慣習を実践した。この後彼は、父祖たちの誰も獲得したことのないような高貴さを達成したので、人びとは彼を愛し、彼の名声は偉大となった。

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