2012年5月24日木曜日

『預言者ムハンマドの生涯』第一巻(5)

まえがき(5)

ムスリム、ノンムスリムを問わず、我々がイスラームについて知ろうとするとき、先ず、唯一の神アッラーから使徒ムハンマドに授けられた啓示を記したコーランを学ぶことになる。イスラーム初期の時代においては、人びとは使徒ムハンマドと同じ時代に生き、神から下された啓示を伝承によって平易に学びとることができたが、やがて時代が過ぎ、人びとはコーランの内容を理解するために、コーランと共にハディース(神の使徒ムハンマドの言行)を知ることが不可欠となった。

 さらに時代が過ぎ、人びとがコーランとハディースを理解することがより困難な状況となった。そこで、当時のアラブの史実や時代背景・環境・文化を知ることによって、コーランとハディースの理解を深め、総体的にイスラームの教えを学ぶようになった。それでは一体、このようなアラブの史実や時代背景を、我々は何から学ぶことができるのであろうか。スィーラ (伝記)と総称される預言者の伝記に関する学問が、その答えである。本書「アッスィーラトン・ナバーウィーヤ」は、数多く著されたスィーラの中で、その完成度と網羅する情報量から、今日においても最古、最高峰の存在である。

日本において、コーランの内容はこれまで様々な日本語訳が出版され、ハディースについても伝承者として著名なブハーリー版とムスリム版について日本語訳を入手することが可能となった。しかしながら、我々が平易にそしてより深くイスラームについて理解するためのスィーラについては、残念ながらこれまで日本語版は存在せず、スィーラ研究は未踏の分野と言っても過言ではない。今回、私たちが本書の全訳を決意した意義はその点にある。本書が、今後の日本におけるイスラーム研究、そしてスィーラ研究に一石を投じることができれば幸甚である。

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