2012年6月5日火曜日

『預言者ムハンマドの生涯』第一巻(23)

イエメン王ラビーア・イブン・ナスルと、二人の占い師、シックとサティーハの物語(1)


イエメン王ラビーア・イブン・ナスルは、トゥッバア王朝の王であった。王はある悪夢を見て、それにおびえ、いたく悩み続けた。そこで王は、王国のすべての占い師、魔法使い、呪術師、占星術師を呼び集めて、言った。「余は、ある夢を見て、それを恐れ、それが余の悩みの種である。その夢が何であるか、また何を意味するか、言うてみよ」。招集された占い師たちは、答えた。「その夢を語ってください。そうすれば、私たちはその意味を解き明かしましょう」。王は、「もし余がそれについて語れば、余は、そなたたちの解釈を信用できなくなる。なぜなら、余が語らなくともその夢を知っている者こそ、その意味を知っている者だからである」、と答えた。すると、彼らのうちのある者が、シックとサティーハは、ほかの誰よりもよく知っており、王の質問に答えられるだろうから、二人に使いをやるように、王に勧めた。サティーハの名は、ラビーウ・イブン・ラビーア・イブン・マスウード・イブン・マーズィン・イブン・ズィーブ・イブン・アディーユ・イブン・マーズィン・ガッサーンといった。シックは、ニザール族のサーブ・イブン・ヤシュクル・イブン・ルフム・イブン・アフラク・イブン・カスル・イブン・アブカル・イブン・アンマールの息子だった。アンマールは、バジーラ族とカスアム族の父である。

 紀元前二世紀の終わりころからイエメンを支配したヒムヤル人の王朝。トゥッバアは王の称号。後にユダヤ教に改宗し、キリスト教徒を迫害したとされる。

 サティーハとシックは、伝承に登場する超能力者の予言者、占い師。イブン・ハルドゥーンは、サティーハについて、頭蓋骨以外に骨がなかったので、体を服のように畳んでいた、との伝承を記述している。タバリーは、サティーハはペルシャ皇帝の夢を判断し、アラブの預言者の出現と帝国の崩壊を予言した、と書いている。

 そこで王は、二人に使いをさし向け、サティーハが先に着いた。王は、同じ言葉を繰り返し、「もし、そなたが夢を知っているのであれば、そなたはその意味を解き明かせるであろう」、と言った。サティーハは、次のように答えた。

 「あなたが見た炎は、海の方からやってきました。その炎は大地を襲い、そこにあるすべてを焼き尽くしました」。

 それは、まさしく王が見た夢であったので、王は、それは何を意味するのかを尋ねた。サティーハは、答えた。

 「溶岩台地の合間に棲む毒蛇にかけてお誓いします。エチオピア人が、アビヤンからジュラシュまで、あなたの土地をすべて支配することになるでしょう」。

 アビヤンは、イエメンの最南端を指す。ジュラシュはイエメンの北部からナジュラーンの北西部までの地名。「アビヤンからジュラシュまで」は、すなわちイエメン全土を意味する。

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