2012年6月9日土曜日

『預言者ムハンマドの生涯』第一巻(38)

アブドッラー・イブヌッ・サーミルと坑の住人(2)


 それ以来、アブドッラー・イブヌッ・サーミルは、ナジュラーンで病人に出会う度に、「おお、神のしもべよ、あなたが、神の唯一性を受け入れるならば、私は、神があなたの苦痛を癒してくださるように祈りましょう。唯一の神への信仰を受け入れますか」、と言うのだった。病人が彼に同意し、神の唯一性を受容してムスリムになると、彼は病人のために神に祈って病を治していった。そしてついにナジュラーンでは、唯一の神への信仰に帰依した病人すべてが、病から完全に治癒していった。この知らせが王のもとに届くと、王は使いをやってアブドッラーを呼びつけ、「お前が余の町の人々を堕落させたので、彼らは余に反抗し、余と我らが父祖の宗教に反対している。いまに目に物見せてやる」、と言った。彼は、「あなたには、そのような力はない」、と答えた。王は、彼を高い山の上に連れて行かせ、まっ逆さまに突き落としたが、彼は何事もなく地上に降り立った。次に王は、それまで誰も戻ってくることのなかったナジュラーンの深い水の底に彼を突き落としたが、彼は無事に水底から戻って来た。

 アブドッラーは、王を完全に打ち負かして、「神の唯一性を受容して唯一の神への信仰に帰依するまでは、私を殺すことはできません。しかし、信仰を受け入れれば、私を殺す力を与えられるでしょう」、と王に言った。そこで王は、神の唯一性を受容して、唯一の神への信仰を宣言し、持っていた棒で彼を軽く打ったところ、彼は即座に死に、王自身もまたその場で死んでしまった。かくして、ナジュラーンの人びとすべてが、イーサ・イブン・マルヤムがもたらした教えに従って、アブドッラー・イブヌッ・サーミルと同じ信仰を受け入れた。その後彼らは、同じ信仰を持つ他の同胞たちと同様に、災厄に見舞われることとなる。これが、ナジュラーンのキリスト教の起源である。だが、このことに関しては神が一番よくご存知である。

 これが、ムハンマド・イブン・カアバル・クラズィーと、ナジュラーンのある人が、アブドッラー・イブヌッ・サーミルについて語った物語であるが、神のみが、何が起きたかを一番ご存知である。

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