2012年6月6日水曜日

『預言者ムハンマドの生涯』第一巻(32)

ハッサーン・イブン・ティバーン・アスアドの統治と、アムルによる兄ハッサーンの殺害


 ティバーン・アスアドの息子であるハッサーン・イブン・ティバーン・アスアドは、王位に就くと、イエメン軍を率いて、アラブとペルシャの地を征服するために出発した。だが、彼らがイラクのある所に至ると、ヒムヤルの部族とイエメンの部族は、それより先に進むことを嫌い、家族のもとへ帰ることを望んだ。そこで、部族の者たちは、軍の中にいたハッサーンの弟アムルのもとへ行き、兄を殺して彼らの王となり、彼らを家に帰してほしいと願い出た。アムルはこれに同意し、ズゥー・ルアインただ一人を除いて、ヒムヤルの部族全員がハッサーン殺害の陰謀に加わった。ルアインは、ハッサーンを殺さないよういさめたが、アムルが聞き入れなかったので、次のような詩を書いた。

 「おお、寝るために不眠を買う者は誰なのか。

 夜を平安に過ごす幸せ者よ。

ヒムヤルは裏切り者だが、

 神はルアインを無実となさる」。

 ルアインは、この詩に封をし、「私のためにこれを保管してください」と言ってアムルに託し、彼はそれを持ち続けた。アムルはハッサーンを殺害し、軍を引き連れてイエメンに引き返した。ハッサーンの死を悲しんだヒムヤル族の一人は、こう言った。

 「前世代が見たのは、

 惨殺されたハッサーンのような人であった。

 王子たちは戦争を続けないために、彼を殺した。

 翌日には彼らは、それはむなしいことだったと嘆いた。

 お前たちが殺したのは我らの最良の人であり、

 生きているのは我らの主人である、

 お前たちは互いに主人であるというのに」。

 アムル・イブン・ティバーンが、イエメンに戻ると、彼はひどい不眠症に取りつかれ、眠ることができなくなった。困り果てた彼は、医者、占い師、呪術師に、悩みの原因を聞いた。彼らの一人は、「あなたが兄を殺したように、兄弟、親族を裏切って殺した者たちで、眠れなくなって不眠症の犠牲にならなかった者は、一人もいません」と答えた。これを聞いた彼が、兄殺しをそそのかしたすべての貴人を殺して、最後にルアインの番になったとき、ルアインは、アムル自身が、自分が無実である証拠を持っており、それは彼に保管を頼んだ文書である、と主張した。アムルは、それを持って来させ読み上げると、ルアインが正しい助言を与えていたことを知って、彼を解放した。アムルの死後、ヒムヤルの王国は無秩序に陥り、人びとは諸党派に分裂した。

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