2012年6月16日土曜日

『預言者ムハンマドの生涯』第一巻(50)

象と暦調節師の物語(8)


彼らは退却の途上、道端で倒れ続け、水飲み場に至るたびに悲惨な死を遂げた。アブラハは身体を蝕まれ、彼らに運ばれて行くと、指が一本ずつ落ちていった。指があったところには、醜いはれ物ができ、膿みと血がにじんで、彼らがサヌアについたとき、アブラハは、小さなひな鳥のようになっていた。彼らは、彼が死んだとき、心臓が身体から飛び出した、と主張している。

 これは西暦五七〇年ころの出来事と伝えられている。この象の年に預言者が誕生した。

 ヤアクーブ・イブン・ウトゥバが私に語ったところによれば、その年は、アラビアで初めて、はしかと天然痘が発生した年で、また、初めて苦い薬草が生えるようになった年でもあった、と伝えられている。

 神が使徒ムハンマドをお遣わしになったとき、クライシュ一族の土地とその永続性を保持するために、アビシニア人を撃退なされた神の慈悲と慈愛をとりわけ詳述されている。「汝の主が象の衆をどのようにあしらいたもうたか、汝は、見なかったか。主は、その企みを壊滅させたもうたではないか。主は、その上に群れなす鳥を遣わして、焼き煉瓦のつぶてを投げつけ、彼らを、食い荒らされた茎のようにしたもうた」(一〇五章)。

 また、さらに、「クライシュ族の安全確保のために、冬および夏の隊商の安全確保のために、彼らをして、この神殿の主を崇めしめよ。彼らの飢えを防いで食べ物を与え、恐怖を除いて安んじさせたもうお方を」(一〇六章)、彼らが受け入れるのならば、神のご意志によって、彼らの地位が変わることはない。

 アブドッラー・イブン・アブー・バクルが、アブドッ・ラハマーン・イブン・サアド・イブン・ズラーラの娘であるアムラから聞いて、私に語ったところによれば、アーイシャは、「私は、目と足の不自由な象の騎士と象使いが、マッカで、食べ物を乞うて歩いているのを見た」、と言った。

 アムラ・ビント・アブドッ・ラハマーンは、前出のアブー・バクル・イブン・ムハンマドの伯母であり、神の使徒の妻アーイシャの友人だった。アブー・バクルは、アムラがアーイシャから聞いた使徒の伝承を息子のアブドッラーに伝達した。

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