2012年6月12日火曜日

『預言者ムハンマドの生涯』第一巻(42)

アブラハはいかにしてイエメンを支配し、アルヤートを殺したか


 アルヤートがしばし、イエメンを支配した後、アブラハが彼の権力に挑み、アビシニア人は二つの党派に分裂して内紛が始まった。戦闘が始まろうとしたその時、アブラハは、アルヤートに使いを遣り、戦士たちの同士討ちを避けて、一騎打ちによって争いに決着をつけ、勝った方が唯一の軍司令官となるよう、申し入れた。アルヤートが同意したので、アブラハは一騎打ちに出ていった。彼は、小柄で太ったキリスト教徒であった。一方、槍を手にして決闘を受けたアルヤートは、背の高い、顔立ちの立派な大男であった。アブラハは、後方からの攻撃を防ぐため、アタウダという名の若者を後ろに伴っていた。アルヤートは、振り上げた槍をアブラハの頭上から打ち下ろし、彼の額、まゆ、目、鼻、口を裂いた。彼が、アルアシュラム(裂けた顔)、と呼ばれるのは、このためである。すると、アタウダがアブラハの後ろから飛び出て、アルヤートに襲いかかり、彼を殺した。それから、アルヤートの軍は、アブラハの軍に合流し、イエメンの全アビシニア人は、アブラハを首領とした。アブラハは、アルヤートの死に対する賠償を支払った。

 この事件の知らせを聞いたアンナジャーシィは、憤りをいっぱいにしながら、「彼は、余の命令が全くないというのに、余の総督を襲って殺してしまったのか」、と言い、アブラハの土地を踏みつけ、彼の前髪を刈り取るまで、彼を放置してはおかない、と誓った。これを聞いたアブラハは、頭髪を剃り、イエメンの土で満たした皮袋に手紙を添えてアンナジャーシィに送った。手紙には、「おお、陛下、アルヤートは、主人の奴隷にすぎず、私も主人の奴隷です。我々は、主人の命令について争いました。誰でも主人に従わねばなりません。ですが私は、アビシニア人の問題を治めることにおいて、より強力で、断固とし、巧妙でした。ところで私は、我が主人の誓いを聞きました。そこで、我が主人が足の下に置いて、誓われた内容を果されるように、頭髪の全部を剃り、それを私の支配する地の土を詰めた皮袋と一緒にお送りいたします」、と書かれていた。手紙を読んだアンナジャーシィは、アブラハと和解し、さらに命令があるまでイエメンにとどまるよう命令し、命に従って、アブラハは、イエメンにとどまった。

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