2012年6月22日金曜日

『預言者ムハンマドの生涯』第一巻(55)

サイフ・イブン・ズゥー・ヤザンの旅と、ワハリズのイエメン支配(2)


 皇帝は、誉れ高い家系の出身で、老人の年齢に達したワハリズという名の男を司令官とした。彼らは八隻の船で出発したが、二隻が沈没し、六隻がアデンの浜に着いた。
 サイフは、彼が集められるすべての人々をワハリズの軍に結集させ、ワハリズに、「私の足は、あなたの足であり、我々は死ぬか、それとも征服するか、どちらかだ」、と呼びかけた。
 ワハリズは、「よし」、と応じた。イエメンの王、マスルーク・イブン・アブラハの軍隊が、彼らを迎え撃とうと出て、ワハリズは、息子の一人に戦闘の経験を積ませるため、戦いにやった。その息子が殺されてしまったので、ワハリズは激怒した。
 軍が攻撃の隊列を整えたとき、ワハリズは、「敵の王はどこにいる」、と尋ねた。彼らが、「象に乗って、王冠を被り、額に赤いルビーをつけた男が見えますか。あれが敵の王です」、と答えると、ワハリズは、「彼に構うな」、と言った。
 彼らがしばらくの間待っていると、ワハリズは、「今、王は何に乗っているのだ」、と尋ねた。彼らが、「馬に乗っています」、と答えると、またしばらくの間待って、そして同じ質問を繰り返したので、彼らは、「ラバに乗っています」、と答えた。
 するとワハリズは、「間抜けめ。王が腰抜けなら、その王国も腰抜けだ。私がこれから彼を射る。もし、敵の兵士たちが動かないのが見えたならば、私がしくじったのであろうから、私が攻撃命令を下すまで、決して動いてはならない。だが、もし、兵士たちが彼の周りを取り囲むのが見えたならば、私がうまく射止めたのに違いないであろうから、すぐに襲いかかれ」、と命令した。
 ワハリズが、(ほかのだれにも引くことができなかったと伝えられている)弓を引き、矢を射放つと、矢はマスルークの額のルビーを割って首の後ろに抜けた。
 マスルークは、ラバから落ち、アビシニア人が周りに集まった。そこへペルシャ人が襲いかかって、アビシニア人は逃げまどい、散々に打ち殺された。
 ワハリズは、サヌアに向かって進撃し、城門に達すると、軍旗を決して降ろさないように命令し、城門を破壊して、軍旗を掲げて入城した。

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