2012年6月16日土曜日

『預言者ムハンマドの生涯』第一巻(47)

象と暦調節師の物語(5)


 そこで、アブドゥル・ムッタリブは、息子の一人を伴ってアブラハの幕営に行き、友人であったズゥー・ナフルに面会を求めた。彼は監禁されているズゥー・ナフルに会い、この困難のために、何か助けになってくれないか、と頼んだ。
 ズゥー・ナフルは、「王の捕虜となって、いつ殺されるか分からない男が、いったい何の役に立つというのだろうか。私は何も助けてやることはできないが、ただ、象使いのウナイスが私の友達だから、彼のところに使いを遣って、あなたが王に面会する許可を求めてくれるように頼んで、あなたの問題を彼に託すよう全力を尽くしましょう。だから、あなたが適当と考えることを伝えなさい、そうすれば、もし彼ができるのであれば、彼はあなたを王にとりなしてくれるでしょう」、と答えた。
 それからズゥー・ナフルは、ウナイスに使いを遣って、「王は、クライシュ一族の族長で、平地の人間、山の頂の動物を養う、マッカの泉の主人であるアブドゥル・ムッタリブのラクダ二百頭を略奪したので、彼はいまここに来ている。だから、彼が王に面会する許可を求めて、できる限り彼を助けてやってくれないか」、と伝えた。
 ウナイスは、「そうしましょう」、と言って、同じ言葉を王に繰り返し、アブドゥル・ムッタリブが、緊急の問題について話し合うために、王に面会を願っている、と付け加えた。アブラハは、面会を許可した。
 アブドゥル・ムッタリブは、これまで見たこともないほど印象的で、整った顔立ちの、威厳のある人物であったので、アブラハは彼に会うと最も丁重に扱い、彼を自分の下座に座らせようとしなかった。
 王は、王座に彼と並んでいるところをアビシニア人に見せることはできなかったので、王座から降りて、じゅうたんの上に座って、彼をそのそばに座らせた。通訳に彼が何を望んでいるかを聞かせると、答えは、王が奪った二百頭のラクダを返してほしい、ということだった。
 アブラハは通訳に、「会ったとき、お前は余を大いに喜ばせたが、お前が言ったことを聞いて余は大いに落胆した。お前は、余が奪った二百頭のラクダのことについて余と話すことを願い、余が破壊するためにやって来たお前と、お前の父祖の信仰については、何も語ろうとはしないのか」、と答えさせた。
 アブドゥル・ムッタリブは、「私はラクダの主にすぎない。カアバの主は天にいらっしゃり、カアバをお守りになるだろう」、と答えた。王が、「カアバの主は、余に対抗してこれを守ることができない」、と言うと、彼は、「それはやってみなければ分からない、私のラクダを返してほしい」、と答えた。

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